診療部門のご案内Departments and Divisions 胆嚢
当施設は日本肝胆膵外科学会修練施設A施設に認定されており、多数の肝胆膵高難度外科手術を安全、確実に施行してまいりました。
2020年、2021年はコロナ感染症蔓延の影響で全国的に受診控えが認められましたが、全身麻酔手術件数は、968件でした。
日本肝胆膵外科学会修練施設A施設としての役割
肝胆膵領域の癌に対する高難度の肝胆膵外科手術を安全に行いえる施設、医師は限られています。日本肝胆膵外科学会は、難治とされている肝胆膵領域の癌に対する高難度の肝胆膵外科手術を「安全に、かつ確実に行うことができる外科医を育成し、認定する制度」として「日本肝胆膵外科学会高度技能医専門医制度」を整備しています。この制度の趣旨は「高難度の手術を安全に確実に行いえる外科医師を育てる」ことであり、そのためには「高度技能指導医のもとで、ハイ・ボリュームセンターである修練施設で経験を積み規定数に達した後に学会申請をし、執刀した手術のビデオ審査を行う」ハードルの高いシステムです。
日本肝胆膵外科学会修練施設は、この専門医を育成するとともに、高難度肝胆膵手術を安全に確実に行いえる施設として学会が認定している施設です。修練施設は高難度肝胆膵外科手術症例数によってA施設(年間50例以上)とB施設(年間30-50例)に区分されており、2021年現在、それぞれ125施設と123施設が全国にあります。これら修練施設は常に学会によりその手術実績が監査されており、年間症例数が充分であっても、その内容(合併症、手術死亡率)において問題がないかを常に評価されている仕組みとなっており、問題のある施設には学会からの指導が行われ、死亡率が5%を超える施設は各症例でのレポート提出が求められ、多くの場合認定取り消しがなされるという厳しいものです。学会では、修練施設の手術死亡率も公表しており、肝胆膵高難度手術全体の術後90日以内死亡率はA施設で1.6%、B施設で1.9%であり、一般施設に比べはるかに低率となっています。代表的な高難度手術である膵頭十二指腸切除術では90日以内死亡率がA施設は1.1%、B施設が1.5%(一般施設では5%超)、肝右葉切除術では90日以内死亡率がA施設は2.2%、B施設が3.6%(一般施設では6%超)となっています。このような学会修練施設における透明性の高さ及び質保障の高さは、手術を受けられる患者さんに対し、施設の高い信頼度を学会が保証しているものであります。
群馬県済生会前橋病院は、肝胆膵外科学会修練施設のA施設に認定されています。肝胆膵外科学会高度技能指導医および高度技能専門医が在籍し毎年90-100例の高難度手術を行い(図a)、肝胆膵高難度手術を安全にかつ確実に行うことができるハイ・ボリュームセンターとして、得意とする内視鏡外科手術とともに地域の信頼に応えていきます。
当院は全国でも早い時期から腹腔鏡下手術を導入した病院の一つであり、1992年から2021年までの腹腔鏡下手術総数は、10309例の施行実績です。これまで腹腔鏡手術に起因する手術関連死は1例もないのはもちろん、合併症も少なく安全に手術を遂行してきました。
腹腔鏡手術の施行数は年々増加しており、2021年は1年間で753例の実施実績であり、開腹移行例がほとんどなく成績は良好です(図1-表1)。
当院では、同じ腹腔鏡下手術の中でも傷跡が全く残らない単孔式腹腔鏡下手術と、胃・大腸の進行癌でも負担が少なく、より傷が目立たない腹腔鏡下手術を行うことに力を入れています。
多くの腹腔鏡下手術を安全、確実にこなす設備として最新鋭ハイビジョンセットを含め、多くの器具を備えるとともに(図2・図3)、手技 向上の研修設備も院内に備えています (図4)。
われわれが開発した針型臓器把持器具ミニループレトラクター(COVIDIENJAPAN Co.)は、傷跡が残らない器具として発売され、全国で多くの単孔式術式で使用され、注目されています(図5)。
当院で施行している腹腔鏡下手術・先進的治療
1.胆嚢結石・胆嚢炎に対する単孔式腔鏡下胆嚢摘出術-全国2位の実績―
当院の腹腔鏡下胆嚢摘出術は全国で2位の施行実績です。通常の施設で行われている4孔式術式に比べ、傷が目立たない「ミニループレトラクターを用いた臍窩縦切開2孔式術式」を1997年に開発し、2009年までに2,200余りに施行しました。2009年からは2孔式術式を発展させた、更に体への負担が少なく傷跡が全く残らない単孔式腹腔鏡下胆嚢摘出術を数多く行っております(図6・図7)。
胆嚢炎症例にも整容性・低侵襲性を考慮し、可能な限り単孔式術式を施行しており、最近では95%の患者さんが単孔式術式となっており、2019年までに単孔式腹腔鏡下胆嚢摘出術の施行数は2,827例となりました。その成績も大変良好なものとなっています(図8・図9・図10)。
さらに高度の胆嚢炎例でも傷が目立たない2孔式の術式で行ないます。
胃管、尿道の管も挿入せず、痛みも少なく、手術3時間後には歩行して頂き飲水もしています。手術翌日朝から食事をし、2日目までに退院することができます。
当外科では、胆嚢癌以外は胆嚢の炎症がどんなに高度でも、開腹手術をしたことがある人でも、すべて腹腔鏡下に手術を行いますが、開腹への移行する割合は僅か0.3%で、99.7%の患者さんで腹腔鏡下胆嚢摘出術が可能でした。合併症もほとんどありませんでした。
単孔式腹腔鏡下術式とは
単孔式腹腔鏡下手術は、臍の溝の中に1ケ所の切開創(1~4cm)をおき(臍窩縦切開法)、この傷から複数のトロッカーを挿入し操作する術式です。傷跡がほとんど残らず、通常の腹腔鏡下手術に比べ整容上優れている利点があります。一方、1ケ所の創から複数の鉗子、腹腔鏡を挿入操作するため、器具がぶつかり合い、技術的に難しく術者にとってはストレスが大きい方法でもあります。また、臍部創を大きく切開してしまう病院も多く、術後の痛みが強く腹壁瘢痕ヘルニアのリスクも指摘され、必ずしも低侵襲とはいえない術式が多いのも現状です。
当院の術式は、過去に2,200例以上に施行してきたミニループレトラクターを用いた「臍窩縦切開2孔式腹腔鏡下胆嚢摘出術」を発展させた単孔式術式です。臍部からは2本のトロッカーを挿入し、1-2本のミニループレトラクターで術野展開するため術野展開が良好で、器具のバッテイングもないことから、手術時間の延長がなく、臍部創が小さい術式であり、術者、患者さんともにメリットが大きい術式といえます(図11)。臍窩縦切開法は極めて速やかに腹腔内に到達でき、傷跡が全く見えない優れた方法であり(図12)、われわれは既に9,000例以上の臍窩縦切開法の経験があるため、安全性も極めて高く、速やかに手術を終了することができます。
当院では現在、単孔式腹腔鏡下手術を9割の胆嚢摘出術・虫垂切除術、あまり進行していない大腸癌に対して施行しています。(図13・図14・図15)