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2.胃外科:胃癌に対する腹腔鏡下胃切除術・胃癌治療

 胃癌の治療は、侵襲が少ない治療順に内視鏡的治療(内視鏡下粘膜剥離術:ESD)、腹腔鏡下手術、開腹手術の3通りがあります。内視鏡的治療は、胃を切除する必要がないことから小胃症状がなく最も負担の少ない治療です。腹腔鏡下手術は、術後の痛みが少なく、整容性にも優れ、回復も早い術式です。胃癌治療の上で重要なことは癌の進行度によりこれらの低侵襲治療の選択を適切に実施しているか否かです。当院では高分化型粘膜内癌はもちろん、粘膜下層浸潤SM1癌でも直径30mm未満はESDの適応拡大病変としてESDでの治療が行われています。また、腹腔鏡下胃切除術は、1997年群馬県で当院が最初に開始し、2021年までに665例に施行しました。現在では開腹手術と同等以上のリンパ節郭清を行うことで進行癌にも適応を拡大した結果、胃癌手術の多くが腹腔鏡下に行われています。(表2
 当院では低侵襲治療の適応を厳密、適切に行うことで、低侵襲治療である内視鏡的治療、腹腔鏡下手術の割合が多く、開腹手術の割合が少なくする努力を行っています。体の負担が少ない治療の割合が高率であることは治療を受ける患者さんの大きなメリットとなります。

-当院の腹腔鏡下胃手術の手技概略(図16-図20)-
 ・5本のトラカールを刺入
 ・気腹下に腹腔鏡下操作で肝十二指腸靱帯内郭清、胃動脈、肝動脈、脾動脈周囲のリンパ節郭清

 

血管処理
 ・傷が目立たないよう臍窩創をY字型に延長し胃摘出
 ・再建を腹腔内吻合法で施行する(新たな傷をつけない)

 

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図16-図20

 

 術後の回復は早く、第2病日から水分開始、第3病日から食事を開始しています。退院時の傷跡は臍窩切開による傷は目立たず、整容性も極めて優れていることがわかります。

 各種疾患で9,500例を越える腹腔鏡手術を経験しているため、胃の腹腔鏡下手術でも成績は良好で安全性も高いものとなっています。
 また、進行胃癌に対しては化学療法を積極的に行い、再発率の低下に努めています。完全切除ができないstage4の胃癌でも5年生存患者が複数出ており、化学療法を行うことにより、長期生存を得ています。

 

2013年からの手術実績

()内:うちロボット手術件数

  2013 2014 2015 2016 2017 2018 2019 2020 2021 2022 2023
開腹胃切除 6 2 13 7 7 4 12 5 8 4 6
開腹胃全摘 16 11 15 8 14 4 11 8 5 8 3
腹腔鏡下胃切除(全摘含む) 48 39 35 52 33 36 31 28 31 26 36(12)
腹腔鏡下胃部分切除 3 0 6 3 4 5 4 4 0 2 1
合 計 73 52 69 70 58 49 58 45 44 40 46(12)

表2

3.大腸外科:大腸癌に対する孔の数が少ない腹腔鏡下大腸切除術・大腸癌治療

 大腸癌治療も侵襲が少ない治療順に内視鏡的治療、腹腔鏡下手術、開腹手術の3通りがあります。内視鏡的治療は、腸を切除する必要がないことから最も負担の少ない治療です。腹腔鏡下手術は、術後の痛みが少なく、整容性にも優れ、回復も早い術式です。当院では大腸癌に対する腹腔鏡下大腸切除術を1997年に開始しましたが、当初内視鏡的治療適応外の早期大腸癌を対象としていました。2004年からは3期までの進行癌にも腹腔鏡下手術を行うようになり、直腸癌(Rb)症例に対する超低位前方切除術、マイルス手術にも腹腔鏡下手術を積極的に施行し、2021年までに1,314例の実績となっています。全国的な症例の蓄積に伴い、進行大腸癌に対する腹腔鏡下手術の根治性は、充分なリンパ節廓清(D3)をきちんと行うことで開腹手術と同等以上の成績が得られることが証明されており、先進的な施設では腹腔鏡下手術の割合が増加しています。当院においても腹腔鏡下手術の割合は増加しており、最近の手術例では80%前後が腹腔鏡下に施行されています。(表3

 当院では同じ腹腔鏡下大腸癌手術とされる中でも、より傷跡が目立たず、体に負担が少ないReduced port surgeryと呼ばれる孔の数が通常より少ない術式を開発、施行しています。癌ができた場所により孔の数は違いますが、単孔式、2孔式、3孔式術式の3通りの方法で手術を行っています。直腸癌でも3つの孔で手術を行い、臍部Y字切開法で臓器を取り出すため、極めて傷が目立たず、患者さんの大きなメリットとなります。(図21

 

図21

 

-腹腔鏡下大腸癌手術の手技概略:直腸癌に対する3孔式低位前方切除術例―(図22-図27
・臍部Y字切開法で小開腹、装具、3本のトロカールを装着、ミニループレトラクター、2本のトロカールを刺入、気腹下に腹腔鏡下操作で下腸間膜動脈周囲を含めたD3リンパ節廓清、腸間膜処理、直腸離断
・臍部創から臓器を摘出
・腹腔鏡下に腸管吻合を施行する(新たに傷をつけない)

 当院の大腸癌手術では、術後鼻から胃に挿入する胃管は挿入しないため胃管による苦痛もありません。術後の回復は早く、第1病日から水分開始、第3病日から食事を開始しています。第10病日退院時の傷跡は臍窩切開による傷はほとんどわからず、整容性も極めて優れていることがわかります。

 

図22-図27

 

 各種疾患で10,000例を越える腹腔鏡手術を経験しているため、大腸癌の腹腔鏡下手術でも成績は良好で安全性も高いものとなっています。  

 癌の状態によりさらに傷が少なく、体に負担か少ない単孔式腹腔鏡下大腸切除術や2孔式大腸切除術も施行しています。
 また、stage3以上の進行大腸癌に対しては抗癌剤治療を行い、再発予防に努めています。完全切除ができないstage4の大腸癌でも5年生存患者が複数出ており、肝転移患者では抗癌剤後に手術を行うことにより、長期生存を得る努力をしています。

2013年からの手術実績

()内:うちロボット手術件数

  2013 2014 2015 2016 2017 2018 2019 2020 2021 2022 2023
結腸切除 12 8 13 19 20 18 19 17 14 18 10
直腸前方切除 9 13 13 11 10 11 11 16 9 7 8
直腸切除(Miles手術) 1 0 3 0 1 1 0 0 0 0 1
腹腔鏡下結腸切除 43 51 48 39 42 52 47 50 58 48 64(13)
腹腔鏡下直腸前方切除 28 47 57 55 47 37 53 39 46 37 36(26)
4 5 5 4 8 5 2 4 5 1 7(2)
合 計 97 124 139 128 128 124 132 126 132 111 126(41)

表3

 

膵・胆道・肝外科:high volume centerとしての膵癌、胆管癌手術

 当院外科が誇る技術のひとつとして、膵臓手術があります。
 膵癌や胆道癌の一部に対しては膵臓手術が行われますが、技術を要する手術のひとつとされています。膵癌治療ガイドラインでは、膵頭十二指腸切除術など膵癌外科手術は、難易度が高く、術後合併症の頻度が高く、重篤な合併症へと発展する可能性が指摘されています。手術症例数が一定以上ある専門医のいる施設では合併症発生の頻度も低く、合併症発生後の管理も優れているとし、膵癌外科治療は「専門医のいる周術期管理に優れた施設」で受けることが推奨されています。以上から、特に合併症が問題となる膵頭十二指腸切除術を年間20例以上施行している施設をhigh volume centerとして、high volume centerでの手術を推奨しています。当院では毎年多数の手術をこなし、ここ数年は1年間で60例前後(膵全摘を含む)の施行実績です。膵頭十二指腸切除術を含めた肝胆膵外科学会での高難度肝胆膵手術を毎年多数施行しています。
 膵に対する腹腔鏡下手術も1998年に県内で最初に施行しており、腹腔鏡下手術経験数が多いことから手術時間も短く、安全性も高いものとなっています(図28)。

 

(図28)

 

 また、膵癌・胆管癌に対する化学療法も積極的に施行し、外来通院での点滴化学療法患者も数多く行っています。
 また肝腫瘍、肝内胆管癌の手術は肝臓内科と密接に協力し、肝切除術、腹腔鏡下ラジオ波焼灼術等を施行しています。

2013年からの手術実績

()内:うちロボット手術件数

  2013 2014 2015 2016 2017 2018 2019 2020 2021 2022 2023
膵頭十二指腸切除(全摘含む) 29 52 67 65 64 69 58 57 53 50 56(1)
開腹膵体尾部切除 7 12 8 16 11 20 20 16 17 14 3
腹腔鏡下膵体尾部切除 1 2 6 3 13 5 5 6 2 10 16(8)
胆管手術 1 8 0 8 5 4 4 5 9 3 5
肝葉切除
(膵頭十二指腸切除術(HPD)含む再掲)
3 13 11 7 12 8 11 2 7 7 6
肝部分切除 2 5 15 13 13 8 12 19 18 20 16(4)
腹腔鏡下肝マイクロ波・ラジオ波治療 3 0 0 1 0 0 0 0 0 0 0
合 計 46 92 107 113 118 114 114 105 106 104 102(13)

その他の腹腔鏡下手術

 当院では脾摘出術、腹壁瘢痕ヘルニア、腸閉塞、胃穿孔、十二指腸穿孔等の急性腹症に対しても腹腔鏡下の手術で対応し、体に優しい手術、治療を行っています。

 

2013~2023年腹腔鏡下手術式別件数

()内:うちロボット手術件数

術 式 2013 2014 2015 2016 2017 2018 2019 2020 2021 2022 2023
胃切除(全摘含む) 48 39 35 52 33 36 31 28 31 26 36(12)
胃部分切除 3 0 6 3 4 5 4 4 0 2 1
胆嚢摘出 243 288 314 349 318 344 320 292 363 348 383
膵体尾部切除 1 2 6 3 13 5 5 6 2 10 16(8)
脾臓摘出 1 7 2 0 3 3 1 3 2 2 1
結腸切除(全摘含む) 43 51 48 39 42 52 47 50 58 48 64(13)
直腸前方切除 28 47 57 55 47 37 53 39 46 37 36(26)
腹腔鏡下直腸切除(Miles手術) 4 5 5 4 8 5 2 4 5 1 7(2)
虫垂切除 54 42 27 33 50 25 33 43 35 48 55
肝マイクロ波・ラジオ波焼灼 3 0 0 1 0 0 0 0 0 0 0
イレウス解除 5 7 7 4 8 9 4 3 4 3 12
鼠径ヘルニア
根治術(大人)
78 137 88 92 100 100 103 115 103 122 145
肺部分切除 11 6 6 8 14 16 16 17 22 25 13
肺区域切除 0 0 0 0 2 1 1 8 6 12 5
肺葉切除 0 2 1 3 4 5 12 19 21 16 10
食道切除(全摘含む)           6 6 7 2 4 4
その他 32 44 29 42 34 57 41 34 53 71 77(6)
合 計 554 675 630 685 674 694 673 672 753 775 865(67)

食道癌外科

 群馬県でも有数の例数を誇り、成績も良好です。1990年以来当科で手術を行った食道癌症例は、87例で年平均5-6例となります。近年は、食道癌手術も胸腔鏡下手術を行っており、痛みが少なく、回復も早い患者さんに負担が少ない手術となっています。
 食道癌は比較的高齢で様々な基礎疾患を持った方が多く、その手術成績は現在でも全国平均では手術死亡例3%前後、5年生存率36.1%と良好とはいえません。
 当科では、入院時からリハビリテーション科の理学療法士の協力をえて、術後一番問題となる呼吸器合併症の予防に努めており、幸いなことに手術死亡例は1例もありません。
 また5年生存率は(他病死例を除き)Overallでは39.3%、Stage1では66.7%,Stage2で50%でした。